逼迫するインフラ整備資金 先進国の更新需要、途上国圧迫(SankeiBiz)



 インフラの整備資金への需要には膨大なものがある。2年前にアジア開発銀行(ADB)が見直したアジア地域における需要額推計は、年間1.7兆ドル(約185兆円)というもので、その前に行われた推計額の2倍強になっている。世界的にインフラが進行してもいない中で、なぜ2倍に急伸したか疑問を持つ者も多いが、日本での公共事業をめぐる論争の中でも指摘された「熊や猪しか歩かない道路」までも取り込んだというよりは、デジタル面でのインフラなどの新規分野の算入や完成後の耐久性の向上策追加によるコスト増などを背景にしたものと考えられる。(国際通貨研究所理事長・渡辺博史)

 ◆年間4兆ドルが必要

 ADBが一つ前の推計を出したほぼ同じ時点で、経済協力開発機構(OECD)が全世界のインフラ資金需要推計を出しているが、それは10年で20兆ドル、年ベースにすると2兆ドルという数字であった。アジアと全世界の比率が大きく変わっていないとすれば、現在では毎年4兆ドルという資金需要が世界には存するということになる。

 果たして、これだけの需要に見合う資金供給があるかというと、これはかなり心もとない。短期的資金は、これまで先進国の中央銀行が大量に流動性を供給し続けた結果、米国の金融政策の方向転換があってもその歩みが遅いため、いまなお、かなりの資金が開発途上国市場も含めた資本市場に残存している。しかし、長期の資金供給には大きな伸びはない。一つの理由は、短期で調達した資金を長い貸し出しに転換する力を民間銀行が失ってきたことである。特に、欧州の銀行の低迷、衰退がかなりの影響を与えている。また、本来的に長期の資金を保有している年金基金などでは、母集団の高齢化の進行によって資金の支払いが開始し、さらに高利回りを狙ってファンドに長期資金を提供していたグループが相対的な利回りの低下により、その投資対象を長期のものから中期のものにシフトされていることが挙げられる。

 ◆進む老朽化

 それに加えて、深刻さを増す要因になっているのは、先進国からの資金需要の増大である。これまで、特に世紀の変わり目時点で着目されていたインフラ資金需要は、専ら開発途上国における新規需要であった。当時は、先進国は前世紀後半にかなり厚めのインフラ投資を行った結果、それがいわば飽和点に達していたことから、新規の資金需要は開発途上国からということに疑問が呈されることは多くなかった。

 しかし、昨年8月、イタリアのジェノバで高架橋が落ちたことが表象するように先進国で整備されてきたインフラの維持、補修、更新が大きな問題になってきた。07年8月に米ミネソタ州で高速道路の橋が崩落した時点では、米土木学会の調査報告は「21世紀初頭に米国に存在する約60万本の橋のうち、構造上の欠陥や老朽化が指摘されているものは、全体の27%以上ある」と述べている。翻って、わが国のケースを見ても、12年12月に笹子トンネルの天井板が落下している。このように、1960年代から80年代にかけて整備された先進国のインフラ施設が50年、60年と経年する中で、その維持、補修、更新が必至となっている。

 また、ニューヨーク・マンハッタン島を大陸とつなぐ多くの橋も、建造後かなりの期間が経過し、その維持に多大な関心が払われる状況になっている。映画その他で有名なブルックリン橋は、1883年に当時の基準強度の6倍の強さで建造されたとされているが、既に130年超経過している。

 そういう状況下では、長期の資金は、リスクの少ないと思われる先進国の既存の事業に流れやすく、開発途上国における新規事業への資金供給は先細りしかねない。いわば、インフラ資金をめぐる綱引き状態が発生している。開発途上国の事業の利回りが昔ほど高いものが期待できない状況では、そのような傾向はさらに強まっていく懸念がある。

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【プロフィル】渡辺博史

 わたなべ・ひろし 東大法卒、1972年大蔵省(現財務省)入省。75年米ブラウン大学経済学修士。理財局、主税局、国際局を歴任し2007年財務官で退任。一橋大学大学院教授などを経て13年12月から16年6月まで国際協力銀行総裁。同年10月から現職。69歳。東京都出身。



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