僧侶の電力小売りに「大義」はあるか(産経新聞)



 京都の僧侶らが宗派を超えて新電力会社を設立し、来年春から電力小売り事業に参入する。寺や檀家(だんか)のネットワークを利用して電気を売り、売り上げの一部を寺の運営費に還元するほか、再生可能エネルギーの普及を図るという。信仰の篤かった近江商人の三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)に“未来よし”を加えた「四方よし」を理念に打ち出しているが、とかく坊主丸もうけと批判されがちな僧侶が始める商売に、果たして「大義」はあるのか。(小野木康雄)

【図解】パンフレットに基づく電気料金の比較

 ■2~3%を寺に還元

 僧侶らが設立したのは株式会社「TERA Energy」(テラエナジー、京都市下京区)。社名は寺、ラテン語の地球(terra)、1兆倍を表す接頭辞のテラをかけている。

 資源エネルギー庁によると、一般家庭向けの電力小売りは平成28(2016)年4月に自由化され、新電力と呼ばれる小売電気事業者は30年11月時点で530事業者が登録。7月時点のシェアは新電力が11%強を占めている。6月に設立され、11月現在で登録申請中のテラ社は後発組だ。

 テラ社の説明では来年4月以降、「おてらのでんき」の愛称で、中国・四国地方の寺や檀家などに既存の大手電力会社より安く電気を売る。売り上げの2~3%を「お寺サポート費」として寺に還元し、1%を社会貢献費に充てる。これらの費用は、人件費や広告費を抑えることで捻出するとしている。

 初年度の平成31(2019)年度は中・四国の寺250件、檀家など5千件との契約を目標にし、7億円の売り上げを目指す。翌32(2020)年度からは全国展開する計画だ。

 電力は、自治体と地域で新電力事業を行う「みやまパワーホールディングス」(福岡県みやま市)を通じて調達。将来は太陽光を中心とした再生可能エネルギー100%での供給を目指すとしている。

 ■電気料金は約2%引き

 「電気料金が安くなる!」。テラ社のパンフレットには、ずばりこんな宣伝文句が踊る。

 一般家庭が毎月400キロワット時を利用すると仮定して、中国電力の家庭向けメニュー(従量電灯A)と「おてらのでんき」で、年間の電気料金がどれだけ異なるかを比較。中国電力が12万3984円、おてらのでんきが12万1488円となり「年間で2496円のお得」とうたっている。

 ただ、値引率は約2%。関西電力と大阪ガスなど新電力大手の間で、4~5%の値引き合戦が繰り広げられていることに比べれば、それほどインパクトのある数字ではない。

 テラ社の説明に基づけば、1戸当たりの年間の電気料金が12万1488円のときのお寺サポート費(2~3%)は年間2429~3644円、社会貢献費(1%)は年間1214円となる。

 お寺サポート費は多くても月300円強の支払いだ。これで寺の運営にどれほど役立つのかという懸念はあるが、パンフレットでは納骨堂の建立など金のかかる事業を、使い道として例に挙げた。

 また、社会貢献費については、パンフレットでは自殺防止や環境保全に取り組む団体への拠出を掲げているが、テラ社は初年度は経営基盤の強化に充てると説明しており、拠出は2年目以降になるという。

 ■目的は「温暖化防止」

 テラ社は10月25日、臨済宗妙心寺派の妙心寺塔頭(たっちゅう)、長慶院(京都市右京区)で記者会見を開いた。

 事業説明や質疑応答の大半を受け持ったのが、竹本了悟社長(40)。浄土真宗本願寺派(本山・西本願寺)の僧侶であり、NPO法人「京都自死・自殺相談センター」(Sotto)の代表として、電話相談や遺族支援などの自殺対策に当たってきた。京都では社会貢献に積極的に取り組む僧侶として知られている。

 それなのに、なぜ起業してまで電力小売りに参入しようとするのか。

 本人が記者会見で語った動機は「地球温暖化を防ぎたい」という思いだった。再生可能エネルギーを電源とする新電力が寺のコミュニティーを使えば「かなり大きな波及効果が得られる」と踏んだのだという。

 テラ社は契約者にソーラーパネルを無償で設置したり、中長期的には山陰地方を中心に小水力発電の開発を行ったりする計画だ。ただ、初年度は再生可能エネルギーで100%まかなうめどは立っておらず、中国電力や四国電力などから電気を仕入れるとしている。

 竹本社長は会見で「寺をどう守るかという考え方から、地域の共有財産としてどう有効に寺を使うかという発想に転換する」とも述べた。つまり、寺の護持を目的と考えるのは買い手の寺や檀家であって、テラ社ではないというのだ。

 ■仏教精神との整合性は

 こうしてみると、いくつかの疑問が生じてくるのは避けがたい。

 最大の懸念は、再生可能エネルギーの普及や社会貢献費の拠出といった大義名分に事業の実態が追いつかない限りは、外形上、寺や檀家を利用しながら電気料金の形で利益を吸い上げ、一部を寺側にキックバックしているだけに見える、という点だ。

 これについて、竹本社長は会見後の囲み取材で全面否定。「自分たちが払った電気料金の一部が返ってきて、それで何をするかを考える仕組みを作りたい」と強調した。

 最初に中・四国で事業を行う理由について、竹本社長は「私が広島出身で縁が深い」と説明したが、広島は浄土真宗の寺院が多く、戦国時代に毛利家の伸長を支えた「安芸門徒」の伝統が色濃く残る。まずは顧客が増えそうな地域で始めたいとみる方が自然だろう。

 構造的な問題もある。テラ社は株式会社である以上、利益を上げる必要がある。法人税の課税対象なので坊主丸もうけという批判は当たらないが、僧侶がもうけを出さねばならないという構図に変わりはない。

 これは、仏教精神に照らして大義があるといえるのか。

 竹本社長は、金もうけは煩悩に当たらないのかと問われて「お金に執着することが煩悩であって、お金を何に使うかの問題だ」と強調。「われわれの仏道は、世俗の生活をしながら歩む。煩悩を前提としつつ、どうコントロールするかが重要だ」と指摘した。

 とはいえ、テラ社は顧客として想定する寺や檀家などを約700万件、市場規模を約1兆円とみている。そこに参入することは、既存の大手電力会社や他の新電力と競争し、顧客を奪い合うことを意味する。

 これが「利他」を尊重する仏教らしい振る舞いなのか、近江商人が大切にした「世間よし」に当たるかは、議論が分かれるところだろう。

 竹本社長が所属する浄土真宗本願寺派は「本派僧侶有志の方々の事業であり、浄土真宗本願寺派(西本願寺)は一切関与しておりません」とする「お知らせ」をホームページで公表しており、早くも批判に対する予防線を張っている。

 また会見では、竹本社長が自ら「僧侶がビジネスをするということで、世間からいろいろ言われるリスクがある」と率直に語り、事業に賛同する僧侶が表に出にくいと明かす一幕もあった。

 いずれにせよ、契約するかどうかは寺や檀家の判断に委ねられている。テラ社は仏教に親しむ人々を顧客とする以上、今後は利益の使い道や財務諸表などの会計指標の情報開示は当然としても、時として、仏教精神に則した説明が求められるのではないだろうか。



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