自動運転で先行する商用車の巨人・ダイムラー 次の一手は(産経新聞)



【経済インサイド】

 自動運転車の展開で気を吐く商用車業界の“巨人”がいる。トラック販売台数で世界首位の独ダイムラーだ。来春までに、部分的な自動運転機能を搭載した大型トラックの生産を世界に先駆けて始める計画だ。量産化の背景にある強みは何か。9月にドイツ・ハノーバーで開かれた世界最大の商用車ショー「IAA国際モーターショー」などを歩き、戦略を探った。

【写真で見る】「IAA国際モーターショー」その他の商用車

 ■ショーで存在感

 「世界のトップを走っていきたい」。ダイムラー商用車部門総責任者のマーティン・ダウム取締役は9月19日、ショーの開幕に先立つプレスデーで、電動化や運転の自動化が進む次世代の商用車市場で主導権を握る決意を強調。丸々2つのホールを占有し約70の展示車両をアピールした。

 主役は、米運輸省などの分類で「レベル2(部分的な自動運転)」の機能を搭載したメルセデス・ベンツブランドの新型大型トラック「アクトロス」。傘下の三菱ふそうトラック・バス(川崎市)も同じ機能の大型トラックを来年末までに日本に投入する計画だ。

 アクトロスは、車載のレーダーとカメラが前を走る車や障害物を検知し追従したり衝突を回避したりできるほか、走行中に自車が走る車線をはみ出そうとするとハンドルを自動的に切って車線内に戻してくれる。

 量産化で先手を打った背景には、欧米の公道で複数のトラックが隊列を組んで走る実験を重ねて磨いた自動運転技術がある。ダイムラーの乗用車部門で培った技術も生かしたという。

 9月17日には、自動運転車生産の一翼も担うヴェルト工場(ラインラント・プファルツ州)を訪れた。トラック生産能力はグループ最大の日産470台。約300台のロボットを導入したり生産工程からの膨大なデータを分析したりして、生産性と品質の向上を両立していた。工場敷地内の「開発テストセンター」には、5000万ユーロ(約65億円)を投じて20年末までに増強。自動運転などの技術開発を強化する狙いだ。

 次に狙うのが、エリア限定で全ての操作が自動化される「レベル4」。ダイムラーが2014年にいち早く掲げた目標だが、目の前には法制度の整備を含めて多くの壁が立ちはだかる。

 トラック部門のピーター・シュミット戦略本部長は技術力を世界に示す好機となる20年の東京五輪・パラリンピックで「デモを行うことは可能だ」としながらも、実用化には慎重な姿勢だ。「レベル4で100%の信頼性を確保するためには、100万マイル(約160万キロ)に及ぶ走行試験を行う必要がある」という。

 ■ライバルの猛進

 自動運転技術の精度向上に向け意欲的なダイムラーだが、将来も“盤石”とは言い切れない。主導権争いが激化しているからだ。気を吐く1社が、トラック・バス部門の社名を「トレイトン」に変更した独フォルクスワーゲン(VW)グループだ。VWグループと日野自動車は4月、商用車分野で包括提携に向けた協議入りに合意。9月には、トレイトンと日野が電動トラックや電動技術の共有化を進めると発表した。

 ショー会場でトレイトンのブースに向かうと、同社傘下のブランドとともに日野の小型電気バス「ポンチョEV」も目に飛び込んできた。そこから日野との協力関係を進化させるという意欲が感じ取れた。自動運転をめぐって日野は、既にいすゞ自動車と基盤技術の共同開発に着手。トレイトンとは引き続き協力の可能性を模索中で、自動運転も検討材料に入っている。

 日野といすゞは、ともに25年度以降に「レベル4」のトラックを開発する目標を掲げている。いすゞは、自動運転車を造るための開発基盤を供給する米半導体大手のエヌビディアの技術を活用し、自動運転トラックの開発に加速する。

 英調査会社IHSマークイットによると、17年のトラック販売で上位2~5社を独占した中国勢も国策を追い風に自動運転で一気に追い上げる潜在力を持つ。3位の第一汽車は、運転手を必要としない完全自動運転が可能な「レベル5」の実現を目指している。

 ■稼げるサービス

 自動運転トラックは、乗用車よりも普及が早く進む可能性が高い。走行場所を高速道路などに限定しやすい上、先進国を中心に運転手の不足や高齢化に悩む運送事業者の切実な声が広がっているからだ。

 運送事業者は高額の自動運転車であっても、運転手の負担軽減や車両の稼働率向上などにつなげられるとわかれば、新技術の導入を検討しやすい。IHSマークイットの佐々木美喜マネージャーは「車両の性能だけでは次世代市場で勝ち残れない。自動運転車に運送事業者が稼げるサービスを組み合わせ提案する力量が試される」と指摘する。

 トヨタとソフトバンクグループは10月4日、自動運転を柱とする新しい移動サービスで提携すると発表。世界に冠たるトヨタでさえ、車を造って売る本業だけでは立ちゆかなくなるとの危機感を持ち、自動運転の頭脳を担う人工知能(AI)などの分野に力を注ぐソフトバンクと組んだ。

 商用車メーカーも移動サービスで商機を広げる過程で異業種との連携を迫られそうだ。来春の株主総会での承認を目指しトラック・バス部門などを分社化する意向のダイムラーからは、各事業の機動力を高めて次世代車市場の攻略を急ぐ思惑が透けて見える。同社の行方から目が離せない。

(経済本部 臼井慎太郎)



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