ルーブルの価値は「米国人が決める」 米の対露制裁が与える本当のダメージ(産経新聞)



 米政府が8月に実施を決めた新たな対ロシア制裁が、プーチン政権と露経済に深いダメージを与えつつある。米国が自国金融機関に露国債の購入を禁じる可能性が高まったことが通貨ルーブルの下落を招き、経済浮揚策を導入を容易に実施できない状況を生んだためだ。年金改革問題で支持率が急落したプーチン大統領だが、国内の閉塞(へいそく)感は一層強まる可能性が高い。

 米国務省は8月8日、英国で元ロシア情報機関員らが神経剤で襲撃された事件に露政府が関与したと断定し、化学兵器使用をめぐる国際法に違反したとの理由で新制裁発動を決めた。制裁は2段階で構成され、第1段階は同27日に発動され、第2段階も11月末までに発動されるとみられている。

 市場の動揺を誘ったのは第2段の制裁だ。打ち出された6項目中、3項目以上が実施される方針だが、その中に米金融機関によるロシア国債の購入禁止が含まれていた。

 みずほ総合研究所の金野雄五上席主任エコノミストは「プーチン大統領は大統領選後、インフラ投資を増やして経済成長率を高めると宣言したが、(同項目のため)財政支出を増やすための国債発行ができなくなる可能性が浮上した」と述べ、「これが一番(市場に)意識された」と分析する。通貨ルーブルは8月8日から1カ月で、対ドルで約10%下落した。

 ルーブル下落は輸入商品価格の上昇につながり、ロシア経済へのインフレ圧力となった。

 ロシアはソ連崩壊以降、激しいインフレで国民生活の混乱が続いた。しかし、ロシア中央銀行は金融引き締めを通じてインフレ率を押さえ込み、現在は2%台にまで下がっている。

 一定の結果が出たことを受け、ロシア中銀は金利を引き下げ、景気を刺激する方針だったとされるが、ルーブル急落で、それもままならなくなった格好だ。金利の高止まりは、銀行から資金を借り入れ設備投資を行う企業活動にも重しとなっている。

 プーチン政権は今年6月、サッカー・ワールドカップ(W杯)の開幕日に、年金の支給年齢を大幅に引き上げる年金制度改革案を打ち出し、支持率が2週間余りで10ポイント超下落する事態を招いた。

 ロシアの年金制度は、高福祉をうたった旧ソ連時代の名残で支払い開始年齢が女性55歳とされるなど受給者優遇の色合いが濃い。財政の逼迫(ひっぱく)を受け、露政府は制度改革に手をつけたが、国民の理解は得られずプーチン氏は8月末、政府案の大幅緩和を表明せざるを得なくなった。

 そんな中でのルーブル急落である。露メディアは「アメリカ人がルーブルのレートを決める」(9月12日付の大衆紙コムソモルスカヤ・プラウダ電子版)などと、他国の意向で自国通貨のレートが左右される現状を、なかば自嘲気味に報じている。

 9月11日から13日まで露極東ウラジオストクで開催された経済フォーラムで、プーチン氏は初参加した中国の習近平国家主席との緊密ぶりを強調。日本に対しても領土問題では揺さぶりをかけたが、一方で安倍晋三首相とマツダの工場をともに視察するなど、経済面での関係強化に強い意欲を示した。

 アジア各国との経済的結びつきを国内外に誇示した格好だが、ロシア経済が低迷から脱する糸口は容易には見えないのが実情だ。(元モスクワ特派員 黒川信雄)



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