「大相続時代」投資資産の流出防げ! 証券各社あの手この手(産経新聞)



 団塊の世代が70歳代後半を迎える2025(平成37)年以降の「大相続時代」を前に、証券各社が高齢顧客に対する“家族ぐるみ”のサービスを充実させている。顧客の親族が証券各社と触れ合う機会を増やすほか、生前贈与など相続前から親族を巻き込むような取り組みを拡充する。証券各社は相続をきっかけとした顧客流出に直面しており、次世代との取引継続が一大関心事。政府・与党も相続が「貯蓄から投資」への流れを断ち切らないよう、制度面の後押しを検討していく。

 「すごい跳ねる~」。8月中旬、東京・新宿のセミナールームに小学生らの歓声が響いた。ボール状に丸く固めた寒天を机に落とすと、スーパーボールのように強く跳ね返ったのだ。女の子が目を輝かせる姿に、隣に座った初老の女性も口元をほころばせた。

 小学生らが祖父母と参加したのは野村証券が開催した「野村のグランパ&グランマセミナー」。食品会社などから講師を招き、顧客の孫らの夏休みの自由研究を助ける。この日は伊那食品工業による寒天研究で、東京都内から参加した6年生の女子(11)は「初めてところてんを押し出した」。祖母(71)も「孫を連れ出すいい機会になりました」と笑顔を見せた。

 野村証券がセミナーを始めたのは今夏から。背景の一つには顧客の高齢化に伴い、これまで野村がかかわってきた顧客の運用資産が、相続を機にインターネット証券などの他社に流出することへの危機感がある。

 業界調査では、国内の個人投資家の4割近くは60歳以上で、4人に1人が65歳以上とみられる。株価上昇に伴い、個人投資家の保有する株式や投資信託の評価額は上昇しており、野村資本市場研究所は「現状では、65歳以上が家計金融資産の過半数を保有している」と推計する。

 業界関係者によると、こうした高齢投資家らは、退職金などの資産運用を野村のような対面型の証券会社に任せることが多かったが、運用資産を相続した親族らが、資産を投資に回さなくなったり、親族が口座を開設するネット証券へ移転したりする動きが増えた。投資家と親族が同居しておらず、相続時に資産が地方から都市部へ移転するケースが多いことも、顧客流出を後押しする。

 「顧客自身との連絡は密でも、ご親族との接点を作る機会が少なかった」

 セミナーを企画した野村証券信託銀行の石田充宏・保険事業部業務企画課長はうち明けた。野村はこれまでも顧客向けに相続などの相談に応じる「終活」サービスの充実を進めていたが、「親族も含めて当社に対する親しみをもってもらう必要が出てきた」(同部)と判断した。

 競合他社も顧客流出を防ぐべく、顧客の親族と“絆”を深める対応を急ぐ。

 大和証券は7月、高齢顧客が証券会社に運用を委託する「ファンドラップ」について、親族が口座を開設することを条件に生前贈与できる仕組みを導入した。SMBC日興証券は平成28年10月から、有名寺院で弁護士による生前贈与のセミナーなどを開催。これまで12回開催され、100人近くの参加者を集めている人気講座だ。

 大和証券の担当者は「親族になるべく多くの資産を残したいというニーズは高まっており、口座開設により、子や孫世代の新たな顧客開拓につながっている」と手応えを口にする。

 また、現行制度では上場株式を相続した場合、3年以内に売却すると売却益への課税が優遇されるが、金融庁はこの「3年縛り」を撤廃して、長期保有を促す平成31年度の税制改正要望を財務省に求めており、年内までに政府・与党が検討する見通しだ。改正が実現すれば、証券会社と顧客親族との“縁の切れ目”を先延ばしさせ、信頼構築に向けた時間的余裕が生まれることになる。

 第一生命経済研究所の星野卓也副主任エコノミストは「日本の金融資産が現預金に偏っている中、投資資産が世代を超えて受け継がれるような道筋を作っていくことが重要になる」と期待している。(経済本部 佐久間修志)



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