【リーマン10年 危機後の世界】中国台頭、揺らぐ世界秩序 金融リスク「10年前の米国より高い」(産経新聞)



 「中国で金融危機が発生するリスクは10年前の米国よりはるかに高い」。2年前まで中国の財政相を務めていた楼(ろう)継偉(けいい)=(67)=は、今年初めに内部の会議で異例の警鐘を鳴らしたという。上海の経済学者が匿名を条件に明かした。

 中国の金融リスクに強い懸念を示す楼。国際金融通ながら率直なモノ言いで知られ、日本の財務相の麻生太郎(77)らとも「たばこを吸いながら談笑する間柄」(日中関係筋)だった。日米の政財界からも信頼が厚く、その発言は重みを持つ。

 だが、金融リスクに対する見方の厳しさから、中国の習近平指導部や周辺からは煙たがられ、2016年11月に退任に追い込まれた。上海の経済学者は「(現実問題を覆い隠す懸念のある)習指導部より楼の分析や発言に信頼性をより強く感じる」と語る。

 中国発の金融リスクは中央政府や国有企業、地方政府とその下部組織が関与する不良債権が最大の懸念材料だ。金融機関監督当局によると、昨年末段階の商業銀行の不良債権総額は1兆7100億元(約28兆円)で不良債権比率は1.74%。ただ、「金融機関からの融資で不良債権を認定する線引きを日米並みに厳しくみればその数倍」(上海の経済学者)とされる。

 地方政府が債務保証する形で第3セクターなど別動隊を通じ、インフラ建設や不動産開発で巨額の資金を銀行から引き出したが、成長鈍化や不動産相場の伸び悩みで返済が危ぶまれるケースは“隠れ債務”と呼ばれ「無数に存在する」(同)という。

 共産党政権が強権で金融機関や市場をコントロールする中国では、金融リスクは簡単に水面下に潜る。

 こうした債務膨張の引き金は、皮肉にも2008年9月のリーマン・ショックを克服するため、当時の胡(こ)錦濤(きんとう)政権が打ち出し、「世界経済の救世主」ともたたえられることになった4兆元(現在のレートで約65兆円)の緊急経済対策だ。

 米国発の金融危機が直撃すれば、都市部への2億人の出稼ぎ農民の不満が暴発。社会不安を招きかねないと警戒した胡政権が08年11月、前例のない巨額対策をトップダウンで決めた。

 その後、中国では高速鉄道網や空港、港湾、高速道路、発電所などのインフラ整備、付随する不動産開発や都市化計画が全速力で進んだ。対策が奏功し中国経済は世界最速でV字回復を果たしたが、こうした強権的な経済政策の“後遺症”が債務の山だ。国際決済銀行(BIS)のデータによると、中国の金融部門を除く総債務の国内総生産(GDP)比は、08年の141%から17年には255%にまで跳ね上がっている。

 象徴的なのは高速鉄道網の建設で、全土の地方政府も関与し、わずか10年足らずで総延長2万5千キロもの路線を作った。だが、その大半が鉄道事業で採算を度外視し、駅周辺の不動産開発で一獲千金を狙った。

 北京に駐在する大手商社の幹部は「内陸のみならず大連周辺など東北も、最近では高速鉄道は空席ばかりで運行本数は減り続けており、駅周辺の不動産開発は新たなゴーストタウンを作っただけ」と酷評する。

 「リーマン・ショックがなければ中国の台頭はあと5年は遅れただろう」。北京の政治学者はこう指摘する。緊急経済対策は金融リスクの遠因となったが、中国を世界第二の経済大国に押し上げる原動力となったのも事実だ。

 中国はリーマンから2年後の10年にはGDPで日本を一気に追い抜き、軍事力や国際的な政治発言力も強めながら、この10年で米国に比肩する存在になった。

 だが、存在感を高めた中国が国際秩序を揺るがす波乱要因となっている側面は否めない。リーマン直後の08年11月、世界的な景気後退への対応策を話し合うためにスタートした20カ国・地域(G20)首脳会議では米国など先進国と中国の利害が対立する場面も多く、今ではG20の存在意義を問う声すら上がっている。

 さらに12年に中国共産党総書記に就任した習(13年に国家主席も兼務)は「強国路線」を掲げ、これにトランプ米政権が警戒感を強めていることが、米中の貿易摩擦の一因となっているとの見方もある。「覇権主義」を膨らませる中国に、リーマン後の世界は、どう向き合うかが問われている。(敬称略)



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