米中貿易戦争の行方 「恐竜」中国直撃のトランプ弾(産経新聞)



 「米中貿易戦争」とかけて、米映画「ジュラシック・パーク」シリーズ第1作と解く。巨大な富と技術を持つ米国が昔、消滅した「中華帝国」という恐竜を再生、繁殖させたところ暴れ出し、封じ込めに転じるというのが、トランプ政権の対中強硬策だからだ。今、上映中のシリーズ最新作は、恐竜を再絶滅の危機から救おうとする物語のようだが、さて、眼下の米中ドラマはどうなるのか。

 2012年秋に中国の最高権力者となった習近平氏は「偉大な中華民族の再興」を掲げた。25年にはハイテクの全面的な国産化を達成し、35年には国内総生産(GDP)で米国を抜いて世界一になる目標を立てている。軍事面でも南シナ海の岩礁を占拠して埋め立て軍事基地を建設している。ユーラシア大陸とその周辺までを包含する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」をぶち上げ、高利の借款を供与してアジア各地で港湾などのインフラを建設し、相手国が払えなくなると“接収”する帝国主義路線だ。

 中国の膨張を支えてきたのは米国である。1990年代のクリントン政権は、中国をグローバル経済に取り込むとして、世界貿易機関(WTO)に加盟させ、輸出の拡大機会を与えた。以来、歴代政権はこの路線を踏襲し、2008年9月にリーマン・ショックが起きた後は中国の貿易黒字拡大の加速を容認してきた。その結果、どうなったのか、グラフを見よう。

 中国の発券銀行である中国人民銀行は自身が決める基準交換レートによってドルを買い上げ、人民元資金を発行し、国有商業銀行、国有企業、地方政府へと流し込む。生産設備や不動産開発など国内投資が盛んに行われ、経済の高度成長を実現する。最大のドル供給源は米国の対中貿易赤字である。その累積額は人民銀行資産を押し上げ、GDPの拡大と連動することが、グラフでは一目瞭然だ。

 この通貨・金融制度は西側資本主義国と決定的に異なる。日銀などの場合、金融市場から国債などの証券買い上げに合わせて資金を供給する。外貨資産はほとんどない。伝統的に紙切れの通貨を信用しない中国の人々は金またはドルを選好する。人民銀行の総資産のうち3分の2を外貨資産が占めるのも、人民元にはドルの裏付けがあることを誇示しないと、信用が失われるからだ。

 そこに対中制裁関税というトランプ弾が撃ち込まれる。今月6日の第1弾は340億ドルだが、間もなく160億ドルが追加されるばかりではない。トランプ大統領は2000億ドルの巨弾を用意しているばかりか、さらに3000億ドルも上乗せすると示唆している。制裁対象となる対中輸入は5500億ドルに上り、実際の輸入額5200億ドルを超える。トランプ氏は全ての対中輸入に高関税をかけるつもりなのだ。となると、中国の金融経済への衝撃は計り知れない。

 中国の国際収支(経常収支)黒字は1200億ドルにとどまる。対米黒字が大幅に減れば、中国の対外収支は赤字に転落するばかりではない。金融の量的拡大に支障をきたし、引き締めざるを得ず、従来のような高成長は不可能になる。不動産市場は崩落し、金融機関は巨額の不良債権を抱える。国内金融を維持するためには海外からの借り入れに頼るしかなく、「一帯一路」の推進どころではない。海外ハイテク企業買収も軍拡予算も冷水を浴びる。

 既に中国経済は減速しつつある。挽回策は人民元の切り下げによる輸出のてこ入れとドルの裏付けのない資金の増発による金融緩和だが、いずれも人民元の国内信用を損なわせる。当局が15年夏に、人民元を切り下げると、一時は年間ベースで1兆ドルの資本逃避が起き、外貨準備が急減した。以来、習政権は資本規制を強化し、日本人など外国人は中国から外貨を持ち出せなくしたが、それでも年間2000億~3000億ドル規模の資本逃避が続いている。トランプ弾は弱り目にたたり目である。

 最近、北京発で独裁権力を握った習氏に対する党内の批判の高まりを示す情報が飛び交う。「米中貿易戦争」を受け、動揺する金融経済システムからみて大いにありうる話だ。

 冒頭の話に戻す。トランプ氏は「ジュラシック・パーク」シリーズ最新作のように恐竜中国の救出に向け、制裁の手を緩めるだろうか。それとも、習氏が白旗を上げるだろうか。拙論はいずれの筋書きも不可能だとみる。中国の膨張を止めるまでトランプ氏は譲らない一方で、習氏は強気で一貫しないと国内政治の立場が危うくなるからだ。(編集委員・田村秀男)



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