鬱病対策、無料講座で取り組む ストレス社会には「しなやかな心で」(SankeiBiz)



 「柳に雪折れ無し」という言葉がある。柳の枝は雪がいくら降ってもめったに折れない。同様に堅いものより柔軟なものの方が、何かの圧力に遭っても、うまくいなして耐えられる。

 ストレス社会で人間が心のバランスを保つ極意も、これに尽きる。日本生産性本部のメンタルヘルス研究所を創設し初代所長を務めた久保田浩也氏が、かねて唱えてきた点である。

 同氏は話だけでなく、どうしたら弾力性に富む心ができるのか、具体的な方法を提唱してきた。1998年に生産性本部から独立して、現在も代表であるメンタルヘルス総合研究所(東京)を設けて、考案した「心の体操」がそれである。

 体から力を抜きリラックスさせることと腹式呼吸を組み合わせた5分ほどの体操である。これまで企業や団体に出向いて講習会を開く一方、メンタルヘルス総研の事務所で、個人を対象に教えてきた。

 久保田氏は82歳になり、このほど個人向け教室を無料講座に改めた。「私もいつまでできるか分からないので、無料にすることで、鬱病に悩む人たちに気軽に来てもらいたいと思ったのです」と語る。

 鬱病になって、強度のふさぎ、不眠症、食欲不振などに陥った場合には、専門医の診察を受けて、抗うつ剤などの薬による治療が必要である。しかし「心をしなやかにする訓練をして、ストレスとうまく付き合うようにしなければ、完治しません」と久保田氏は言う。

 要は、薬で治っても、ゆったりとした心の持ち方を身に付けないと、元のもくあみになりかねないわけである。久保田氏の「心の体操」は、座禅の呼吸法やリラクセーションなどのさまざまなものを参考にしている。

 講座は日曜日に東京や横浜で開いている。初回は2時間で、後は自宅で5分の体操を毎日最低5回やるように指導する。しかし「5回以上やらなければと思い込むと負担になるので、本末転倒です。うまくできないと思ったら、講座に何度来てもらっても結構です。無料ですから」と、久保田氏は笑う。

 前は受講者の都合に合わせて随時教える方式で、料金が1回2万円だった。経済的な負担を考えたら、気軽に試したり再度通ったりできない。これが無料にした一つの理由でもある。

 数年前、ある企業の40代の管理職から、鬱病で4年間苦しんだ話を聞く機会があった。通算8カ月ほど休職して、複数の抗うつ剤と睡眠薬を手放せなかったが、「心の体操」を始めて3、4カ月で全快したという。

 注目したのは、この男性が職場復帰をした際、その会社のトップが「のんびりやろうよ」と声をかけてくれたことである。会社の柔軟な対応は、社員の心の健康を維持する上で重要なポイントといえる。

 ところが久保田氏が言うように「どこの会社にも、ろくな上司はいない」のが現実である。どのような組織でも、ストレスは当然、大なり小なりある。「ストレスが全くない状態は、死んでいるのと同じことですよ。だからストレスを柔らかく受け止められるように、心を訓練しなければならないのです」

 こう語る久保田氏は「メンタルヘルス」という言葉を日本に広めた一人である。最後に取り組む無料講座は「体力とおカネが続く限り」やるそうだ。

                  ◇

【プロフィル】森一夫

 もり・かずお ジャーナリスト。早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は『日本の経営』(日本経済新聞社)、『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(同)など。68歳。



Related Post



コメントを残す