米中貿易100年戦争の号砲が鳴った 習近平氏の野望を潰す2000億ドル削減(産経新聞)



 中国の膨張主義に対し、覇権国家の米国が対峙(たいじ)する。習近平政権に対するトランプ政権の対米貿易黒字2000億ドル削減要求は、米中貿易「100年戦争」の号砲である。

 米中間の通商協議は、まず5月初旬に北京で開かれ、米側は今年6月から12カ月の間に対米貿易黒字を1000億ドル、19年6月から12カ月の間にさらに1000億ドルを削減するよう求めた。知的財産権侵害や米企業に対するハイテク技術提供強要の中止などを迫った。

 5月17、18日の米ワシントンでの2回目の協議の後、中国側は農産物やエネルギーなどの輸入拡大を表明した。米側は対中制裁関税の適用を棚上げし、とりあえず米中は「休戦」した。そんな駆け引きからすれば、「100年戦争」とは大げさと思われるかもしれないが、中国の国際収支と米中貿易収支に関するグラフを見ていただきたい。

 中国は輸出を通じて巨額の経常収支黒字を生み出してきた。これと日米欧など海外企業による対中投資で外貨が流入する。発券銀行の中国人民銀行は外貨を吸い上げて外貨準備とし、外準の増加に見合う人民元を発行し、商業銀行を通じて融資を拡大させる。それこそが改革開放路線以降の中国高度成長の方程式だ。

 特に2008年9月のリーマン・ショックは中国の膨張加速のきっかけになった。米連邦準備制度理事会(FRB)は米国が5年間でドルの発行額を約4倍、3兆ドル以上増やした。中国には貿易黒字や海外からの投資を通じてほぼ同額のドルが流入し、人民銀行は米国と同じ規模で金融の量的緩和を行い、2桁台の経済成長率を取り戻した。

 12年秋に党総書記に就任した習氏は、14年11月にユーラシアから中近東、アフリカまでの陸海を結ぶ現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」をぶち上げた。軍拡を背景に、東南アジア各国に有無を言わせず南沙諸島を占拠する。それを支えるのがマネーパワーだ。

 とどのつまり、流入外貨が経済・軍事両面に渡る膨張の原動力といえるわけだが、中国は致命的とも言える脆弱(ぜいじゃく)な構造を内包している。グラフが示すように、対米貿易黒字は経常収支を一貫して上回る。対米貿易で巨額の黒字を稼げなければ、通貨も金融も拡大させられないのだ。

 トランプ政権として、その急所を突く意図があったかどうかは確認できないが、米側統計で昨年3750億ドルに上った米国の対中貿易赤字に着目した。中国の経常収支黒字は縮小する傾向にあり、昨年は1200億ドルにとどまった。2000億ドルもの対米黒字を減らせば、中国の対外収支は大幅な赤字に転落し、習政権の対外膨張戦略は頓挫しかねない。

 今や中国のマネーパワー自体、見かけだけだ。外準は3兆ドルを超え、世界ではダントツだが、中身はおみやげの菓子箱によくあるような上げ底だ。中国の場合、外国企業の直接投資、海外市場での債券発行、銀行借り入れなど、負債によって入る外貨も人民銀行が最終的に吸収するので、外準として数える。グラフが示すように、負債の増加額が外準の追加分をはるかに超える。

 貿易などの経常黒字に加えて負債が大きく増えても、外準は前年をかろうじて上回る程度である。中国から巨額の資本逃避が絶えないのだ。

 資本逃避の規模は15年後半で年間1兆ドルに上った。当局が輸出競争力強化のために踏み切った人民元切り下げを嫌って、中国国内の投資家や富裕層が闇ルートを通じて資金を海外に移したためだ。

 その後、当局が人民元相場をやや高めに誘導したことで資本逃避は減ったが、昨年でも2000億ドル前後の水準だ。そんなお寒い外準事情ならなおさらのこと、習政権は2000億ドルどころか、その半分であっても対米黒字削減に応じるはずはない。

 シンガポールでの開催が予定されていた米朝首脳会談は中止となったが、米中摩擦には当面、北朝鮮情勢の成り行きが影響する。トランプ大統領はかねてから、北朝鮮の金正恩労働党委員長に対する習氏の影響力に期待してきた。習氏はそれを逆手にとって、通商交渉で譲歩を迫るが、長き攻防のほんのひとコマだ。

 トランプ後の米政権にとっても、中国の脅威の増大を食い止めるために最も効果的な方法が、中国の対米黒字大幅削減なのは火を見るよりも明らかだ。これに対し、終身国家主席の座を確保した習氏は絶対に譲らないだろう。2000億ドル削減は一帯一路に賭ける野望をくじくばかりか、共産党主導の経済モデル自体が崩壊危機にさらされるのだ。

(編集委員 田村秀男)



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