エレキギター老舗のギブソン破産 業績低迷の理由には「文化とライバル」も(SankeiBiz)



 高級エレキギターの老舗、米国のギブソンが今月1日に米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を米裁判所に申し立てた。業績低迷の原因はロック音楽が低迷してエレキギター市場の縮小傾向が続いていたためで、局面打開のために、オーディオなどの本業以外の分野に事業展開したのが裏目に出た格好だ。そういえば楽器を弾かないボーカルダンスグループの流行は世界的な傾向だ。それにわざわざ楽器を演奏しなくても今ではスマートフォンレベルで豊富な音楽コンテンツは容易に利用が可能だし、シンセサイザーによる楽曲の制作も簡単になった。(作家・板谷敏彦)

 もはや半世紀近く古い話だが、1960年代後半は歌謡曲やグループサウンズが全盛だった。年末には紅白歌合戦と並んでレコード大賞の番組が大人気で、今ではすっかり見かけなくなったが、小さな商店街にも、たいてい1つはレコード屋さんがあったものだ。会社帰りを相手にしていたからか閉店時間が遅くて、暗くなった商店街にレコード屋はいつも最後まで明々と電気がともされていた。

 レコード売り場には、天井から値札が付いたギターやウクレレがぶら下がっていたが、楽器専門店ではないので1万円を超える商品は珍しくて、たいてい数千円からギターが買えた。こうしたギターにはスチールの弦が張ってあり、クラシックギターなのかどうかギターの種類さえも明確ではなかったが、どれも日本製だった。多分こうした楽器を作れる技術がある国の中では、日本は最も賃金が安かったのだろう。

 中学生になった頃、ロックやフォークがはやり始めた。当時はクラスの男子のほとんど全員がギターを弾いているのではないかと思えるくらいにギターがはやった。プロのギタリストは皆ギブソンやフェンダー、マーチンという米国のブランドのギターを使っていて、こうしたブランドを使っているかどうかでプロかアマチュアなのかを区別していたように思う。

 ではアマチュアはどんなギターを使っていたのかというと、ギブソンに似たグレコ、フェンダーにはフェルナンデス、マーチンにはモーリスなどの国産のコピーモデルで、遠目からは本物そっくりに見えるロゴがギターのヘッドに堂々と書かれていた。

 ざっくりと当時の価格差は30万円対5万円。国産もレコード屋のギターからは随分進化して高品質になっていたが、ギブソンなどは中高生に手が出るような楽器ではなく“神”のようにあがめたものだ。

 今でも「ギブソン」のブランドは盤石だから、事業をギターに絞りさえすれば会社再生は難しくはないだろう。しかしその一方で、昔コピーモデルを作っていた国産メーカーのギター製造技術は今や本家を追い付き追い越してしまって、今どきのギター少年たちは、昔僕らがギブソンをあがめたほどには、こうしたブランドに執着はないようだ。材料をえりすぐったモデルの中にはギブソンよりも高価な国産ギターはいくらでもある。この分野の日本の技術も文化も成熟しているのだ。

 年を取って疎遠になっていたギターの世界、くしくもギブソンの破産が古い思い出を呼び起こしてくれた。そしてギブソンの業績低迷の理由の一つに、成熟した社会の多様化したユーザーのニーズとライバルたちの出現による競争の激化も加えるべきだろうと思ったのだ。

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【プロフィル】板谷敏彦

 いたや・としひこ 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)など。62歳。



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